のれんに腕押しと言うべきか、結局あれはなんだったんだろう?
のれんに腕押し、という言葉があります。
昔つきあった女の子がそんな感じでした。
ぼくが二十代のなかばで、彼女が二十代の初めでした。彼女は僕が当時勤めていた大きな会社の、別の部署にいた子でした。その子の家がぼくの住んでいたアパートの割と近くにありました。
スーパーで買い物をしているときに、ばったりと会うということが重なって、ある日、とうとうデートに誘ってみたんです。
そしたら、OKはOKだったんですが、けっこうそっけない感じでした。 彼女は地味な顔立ちの子でしたが、女友だちと話しているときの笑顔がとてもかわいらしい、というのは知っていました。
その笑顔が見たくて、初めてのデートのときに一生懸命サービスにつとめたのですが、あまり笑ってはもらえませんでした。 ぼくがデートしたのは彼女がふたりめで、当時のぼくは童貞でした。女の子の扱いがへただから、打ち解けてくれないのかな、とへこんだりしました。
二度、三度とデートしても、のれんに腕押しといった感じは変わりませんでした。こりゃ、脈がないかなあ、と思ったり、でも誘えば来てくれるのだから、まだチャンスはある、と気をとりなおしたり。
気分のアップダウンの激しい日が続きました。 それでも二月ほどしてぼくのアパートに誘ったら、案外すなおに付いてきました。部屋でタイミングをみはからってキスを迫ったときも、すなおに応えてくれたんです。 いや、そこからはむしろ彼女のほうが積極的でした。
キスもうまいし、手でぼくのあそこを愛撫してくれて、それがまたうまい。 あやうく暴発しそうになって、あわてて彼女に脱いでもらい(女の子の服の脱がせかたもよくわかっていなかったんです)、ぼくも脱いで、エッチしました。
それがぼくの初体験でした。 その日からぼくはすっかりのぼせて、彼女に夢中になりました。でも、彼女のほうは相変わらず脈のなさそうな態度でした。 たとえばぼくが、 「好きだよ」 と、言っても、 「ありがとう」 と、そっけなく答えるだけでした。
女の子は花が好き、というのを雑誌で読んで、花を贈ろうとしたんですが、 「いらない」 と、これまたそっけない。 それでいて、デートに誘えば来てくれて、体の関係は続きました。
エッチのテクニックはすごかったです。でも、ぼくのことを好きだからエッチしてくれる、という感じはなかったです。
なんだか、感情のない、エッチの自動販売機みたいだ、と思ったこともあります。 やがてぼくのほうも熱がさめてしまい、一年ほどで別れました。 今思いだしても、あのときの彼女はなんだったのかわかりません。
あれがセフレというものなのか。女性経験の浅いぼくにはわかりません。